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シンプルで合理的な生活

歴史と文化

日之下あかめ『エーゲ海を渡る花たち』~丁寧にフィクションに落とし込まれた作品

日之下あかめ『エーゲ海を渡る花たち』は、Webで連載開始時から気になっていて、発売後に購入だけして、なかなか読むことができなかった1冊。期待値が高かったというのもあり、時間があるときに大きめのタブレットを購入してゆっくりと読もうと考えていたの…

ゆうきまさみの『新九郎、奔る!』~馴染みのない複雑な舞台を背景に描く難しさ

ゆうきまさみの『新九郎、奔る!』は発表当時から北条早雲(というより後北条氏の祖である伊勢新九郎盛時)を主人公にした連載ということで話題になっていたが、1巻の発売からかなり遅れ、ようやく読むことができた。 新九郎、奔る!(1) (ビッグコミックス)…

御館の乱で武田勝頼はどう動けばよかったのか?

武田家の滅亡の要因のひとつとして、御館の乱での武田勝頼の判断があげられることが多い。元々勝頼は上杉景虎側に与していたが、景勝と和睦したことで景虎の敗北へとつながっていく。そのため景虎の実家である後北条との確執が生じ甲相同盟が破綻。後に小田…

乱発されるスピンオフ作品に思うこと

※マイナスの話な上に、かなり主観の強い内容なので、具体的な書名は書かないことにしました。 電子書籍がメインになってからはあまりしていないのだが、以前は店頭で目についた本を買うことを定期的に行っていた。ジャケ買いではないが、いつも書評やレビュ…

三国志を題材にした切り口の少し変わった小説・マンガ

先日、比較的人気のある時代の歴史小説やマンガでは、なにか独自性が必要ではないかと書いたのだが、さまざまな書かれ方をしているのは三国志の時代がその代表だろう。 吉川英治の小説や横山光輝のマンガのように、三国志演義そのものを構築した物語は昔から…

デゾルドルからみる馴染みのある歴史上の舞台や人物を取り上げる難しさ

ツイッター上で、単行本の売上が芳しく無く、このままでは打ち切りにと訴えて話題となった、岡児志太郎の『デゾルドル』 デゾルドル(1) (モーニングコミックス) だが、結局、2巻を持って連載終了となることが作者のツイッターで発表された。ネット上では…

『ゴールデンカムイ』を読んで考えてしまう健康上のアレやコレ

今やすっかり人気作品になってしまった野田サトルの『ゴールデンカムイ』内容自体はこれまでもさまざまな場所で多くのレビューがあるので触れないが、アイヌの少女アシリパをはじめとする食事のシーンも人気のひとつだろう。なかにはエゾリスなどの脳や肉の…

書評:講談社興亡の世界史 羽田正『東インド会社とアジアの海』

歴史が苦手な人の多くには、学校での暗記科目としての印象が強いからという。縦へのつながり、つまり時間を遡るあるいは下る学問のため、用語の暗記よりも、物語的な因果関係を主軸に置くほうが理解がしやすいのだが、なにしろ他の教科もあることだし今の学…

戦国大名水野氏の史跡をめぐる:刈谷篇

戦国時代の水野氏の史跡をめぐる行程の刈谷篇。 東浦篇はこちら www.oreganonote.com 刈谷駅南口から市営のバス「公共施設連絡バス」という無料バスが出ているので、小垣江線か依佐美線に乗り、UFJ銀行前の銀座四丁目で降りる。 バス停のあるこの場所は江戸…

戦国大名水野氏の史跡をめぐる:東浦篇

尾張の織田の同盟者といえば、三河の徳川(松平)というのはよく知られている。だが、知多と西三河を勢力下におさえていた水野氏は、ある意味、織田にとっては徳川以上の存在ともいえる戦国大名である。元々水野は今川と関係を結んでいたが、信長の父信秀の代…

ゆるキャン△の志摩リンに対する共感

なんだか妙な方向に話題になっていた『ゆるキャン△』だが、我が家ではアマゾンのプライムビデオで夕食時に視聴している。 元々は、家族のひとりにコミックの方をすすめられていたのだが、掲載誌から最初は躊躇していた。どうも、女の子たちが集まってただキ…

池鯉鮒宿跡から知立神社を歩く

愛知県の知立市は東海道五十三次の池鯉鮒宿もある古くからの街である。ここには昔から用事で何度も来てはいたのだが、観光をした経験がない。先日、仕事で行く用事があったので、この機会に散策してみることにした。 駅前でGoogleMapで確認し、まず駅から少…

始皇帝がいなければ中国史はどうなっていたか、というあまり盛り上がらない想像

年明けの頃に、欧州列強により植民地化されていなかったらアフリカはどうなっていたかという仮説に基づいた地図が話題になっていた。 togetter.com こうしたなかで、始皇帝がいなければ中国史はどうなっていたかという話もあった。 先に自分の中の結論から書…

砂糖の功罪と和菓子が今でも甘い理由

先日、砂糖が健康に与える影響についての研究に対し、砂糖協会が大学への資金を打ち切り、論文も出させなかったというニュースが出ていた。 www.huffingtonpost.jp 砂糖に限らず多量の摂取が害になるものは少なくないので、研究の内容自体はそれほど驚くべき…

秀吉も家康も尾張徳川家も。日本史の建築を支える木曾の山林

現代の日本では海外から低価格の木材が輸入されることもあって、国内の山林は管理のために伐採はされても、輸送コストから放置されるものもある。バイオマス発電などこうした木材の利用は考えられているが、あまり森林資源が活用されていないのが現状だ。 し…

4はしっかりしていて5は適当なものって? 戦国四君と春秋五覇

今日は小ネタ。 人気歴史マンガのキングダムには趙の三大天なる用語が登場するが、この称号は記憶になく、おそらくは原さんの創作なのだろう。趙には恵文王の時代に、廉頗、藺相如、趙奢という3人の功臣が存在しており、そこから着想したとおもわれるし、実…

それからの戦国大名たち。滅亡してからが本番

戦国大名といえば武田勝頼や浅井長政のように、滅亡とともに戦死、あるいは自決してその生涯を終えるイメージがあるかもしれない。だが、案外、そうでない者も少なくない。豊臣政権以降になれば臣従する者も多かったが、それ以前の戦国期にも降伏や逃亡で命…

若者のクルマ離れと言われる時代に暁生カーのイメージは通用するのだろうか

唐突だが暁生カーというのをご存知だろうか。 90年代の後半につくられた、アニメ「少女革命ウテナ」で、その登場人物で理事長である鳳暁生が所有する赤いスポーツカーを称した言葉である。このクルマは子供には手に入らない恵まれた大人のためのもの、強い大…

陳平と再分配

数年前から再分配という言葉は社会のテーマとなっているが、それをきいて思い出すのは陳平のことだ。お金の話、の人ではないというのは定番のネタだっただろうか。秦から漢の初期に生きた政治家である。 もっとも楚漢戦争、つまり項羽と劉邦の時代の人という…

本能寺の変の足利義昭黒幕説、あるいは室町幕府再興説について

本能寺の変の動機についてはもう諸説紛々であり、定期的に新しい史料が発見されたというニュースが登場する。先日も新たな証拠として土橋重治宛光秀書状の原本が見つかったというニュースが報道されていた。 www3.nhk.or.jp 発見者である三重大の藤田達生先…

日本の中世に発達した特異な贈与経済を紐解く 中公新書『贈与の歴史学』

今の経済を論じる人というのは、どうも攻撃的な人間が多く、自己主張ばかりで特にネットではわけの分からない状態だ。贈与経済なる言葉も、なぜか脱成長という概念に括られてしまったり、極めて狭い定義で語られ、本来の意味からも遠く離れ、争いの種になっ…

史学的なファンタジー戦記、カトウコトノ『将国のアルタイル』

好きな作品だが、人にすすめる際になぜか欠点から話してしまう。そんな作品がいくつかあるが、将国のアルタイルもそのひとつだ。 将国のアルタイルは、今年で連載10周年を迎えたカトウコトノによる本格的なファンタジー戦記。現在アニメ化もされ、放送されて…

桶狭間の戦いは今川対六角だったという空想で遊ぶ

※これから書くことは、あくまでも都合のいい解釈だけで構成した妄想という名のお遊びです。 最近では刀剣がらみでもずいぶんと有名になった名古屋市東区の徳川美術館だが、現在開催中(10日まで)の特別展「天下人の城」で、同緑区の長福寺所有の桶狭間合戦討…

それでも変わりゆく高校野球

混合されるスポーツと更生 今年の高校野球夏の大会では、ある高校の監督の記事が話題となった。挑発的な内容だったこともあり、かなり物議をかもしたのだが、キャッチーなかき氷や携帯の話が主に取り上げられていた。 とはいえ海外のプロスポーツクラブでも…

【書評・レビュー】文字は禍か、それとも祝福か。伊藤悠『シュトヘル』

シュトヘルは西夏文字を主軸にした歴史群像劇だ。 作者は『皇国の守護者』のコミカライズで好評を博した伊藤悠。 『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のキャラクターデザインにも起用されていることもあり、馴染みのある人も多いのではないだろうか。 …

丁寧に史実をなぞらえたストーリー歴史ギャグ四コマ 重野なおき『信長の忍び』

www.oreganonote.com 先日、村木砦の話を書いたのだが、私が信秀から信長の若かりし頃の時代に興味があると知った知り合いから重野なおき『信長の忍び外伝 尾張統一記』というギャグ4コマ漫画を薦められた。 信長の忍び外伝 尾張統一記 1 (ジェッツコミック…

話題の中公新書より3冊をピックアップ。飲み物から世界史の動きを読む

中公新書が話題になっている。 きっかけは応仁の乱という地味なテーマにかかわらずヒットをしており、その流れから中公新書の編集部の方針が取り上げられていた。 headlines.yahoo.co.jp こうした古いタイプの新書シリーズが好みである。 中公新書以外では、…

織田今川の激戦の地:知多郡東浦町八剱神社(村木砦跡)を訪ねて

先日、仕事で知多へ用事があったので、帰りに少し寄り道をすることにした。 目的地は知多郡東浦町にある八剱神社である。 とはいっても検索してこのページを開いた方以外にはいささか馴染みのない名前だろう。 八剱神社は戦国の時代、村木砦という拠点が築か…